「逆行列の公式は覚えたけど、計算の手順で必ずどこかを間違える」「det = 0 だと求まらない、と言われても理由が分からない」——行列の計算は、手順を機械的に守れば必ず正解にたどり着くのに、途中の符号や順序の取り違えで失点しやすい分野です。

この記事では、2×2と3×3の行列式・逆行列を、代入過程をすべて書き出した例題で解説します。読み終える頃には、det = 0 で逆行列が存在しない理由まで含めて、手順を再現できるようになります。

前提の用語: 行列と単位行列

行列は数を長方形(行と列)の形に並べたもので、この記事では正方形に並べた正方行列(2×2、3×3)を扱います。成分は左上から a, b, c, … と呼び、2×2行列 A = [a, b; c, d] なら a が1行1列、b が1行2列です。

単位行列 E は、対角線上に1、それ以外に0を並べた行列(2×2なら [1, 0; 0, 1])で、数の世界の「1」に相当します。任意の行列 A に対して A × E = E × A = A が成り立ち、逆行列の正しさの判定は「A × A⁻¹ = E になるか」で行われます。

行列式とは: 行列がもつ1つの数値

正方行列から1つの数値を作る演算が行列式(det)です。2×2行列 A = [a, b; c, d] の行列式は、

det A = a·d − b·c

たとえば A = [1, 2; 3, 4] なら det A = 1 × 4 − 2 × 3 = 4 − 6 = −2 です。

幾何学的には、行列式はその行列で平面(空間)が何倍に引き伸ばされるかの倍率を表します。det = 0 は空間がつぶれてしまうこと、つまり行列が「逆に戻せない」変形であることを意味します。回転の変換行列の行列式が常に1なのは、回転が図形の面積を変えないからです。たとえば30°の回転を表す行列 [cos30°, −sin30°; sin30°, cos30°] の行列式は cos²30° + sin²30° = 1 で、確かに1になります。

2×2の逆行列: 公式は1つだけ

逆行列 A⁻¹ は「A と掛けると単位行列 E になる行列」で、存在条件は det ≠ 0。2×2には美しい公式があります。

A⁻¹ = (1/det A) × [d, −b; −c, a]

対角成分を入れ替え、非対角成分の符号を変え、行列式で割る——これだけです。

例題: A = [2, 1; 1, 1] の逆行列

det A = 2 × 1 − 1 × 1 = 1。det ≠ 0 なので逆行列が存在し、

A⁻¹ = (1/1) × [1, −1; −1, 2] = [1, −1; −1, 2]

検算: A × A⁻¹ = [2×1+1×(−1), 2×(−1)+1×2; 1×1+1×(−1), 1×(−1)+1×2] = [1, 0; 0, 1] となり、単位行列に戻ることで正解を確認できます。

det = 0 のときは?

A = [1, 2; 2, 4] の場合、det A = 1 × 4 − 2 × 2 = 0 となり逆行列は存在しません。この行列に対応する連立方程式(x + 2y = ⋯、2x + 4y = ⋯)は、2本の直線が平行になって解が一意に定まらないことに対応します。「det = 0 = 割り算ができない」ではなく「そもそも元に戻せない変形」と理解すると、意味がつながります。

3×3: 余因子展開で行列式を求める

3×3の行列式は、1行目で余因子展開します。

det A = a(ei − fh) − b(di − fg) + c(dh − eg)

例題: A = [1, 0, 2; −1, 5, 0; 0, 3, 1]

各小行列の行列式を先に計算します。

  • ei − fh = 5 × 1 − 0 × 3 = 5
  • di − fg = (−1) × 1 − 0 × 0 = −1
  • dh − eg = (−1) × 3 − 5 × 0 = −3

代入すると det A = 1 × 5 − 0 × (−1) + 2 × (−3) = 5 − 6 = −1。det ≠ 0 なので逆行列が存在し、各成分を「余因子 ÷ 行列式」で計算すると

A⁻¹ = [−5, −6, 10; −1, −1, 0; 3, 3, −5]

となり、なんと成分がすべて整数です。A × A⁻¹ の対角成分が 1, 1, 1 になることから正しさを確認できます。0が多い行・列を選んで展開すると手計算が楽になる、というのもこの例から読み取れるコツです。

なお、3×3の逆行列の求め方にはもう1つ、元の行列の右に単位行列を並べて行基本変形する方法があります(OpenStaxの教科書ではこちらを紹介)。こちらは機械的ですが手間が多く、本ツールで使っている「余因子 ÷ 行列式」の直接計算は、1つの成分だけを取り出したい場合に便利です。どちらの手順でも同じ逆行列に到達します。

よくある3つの間違い: ① 2×2の逆行列で対角成分の入れ替えを忘れる([d, −b; −c, a] の形を守る)。② 3×3の余因子展開で、交互に現れる符号(+, −, +)を間違える。③ det = 0 の行列で無理に 1/det を計算しようとする。展開の符号は「+ − + / − + − / + − +」の市松模様として覚えると漏れが減ります。

ツールで行列式と逆行列を確かめる

手計算の答え合わせにはTools Hubの行列計算ツールが使えます。2×2・3×3を選んで成分を入力すると、行列式が余因子展開の代入過程つきで表示され、逆行列が表で出力されます。det = 0 の場合は「逆行列なし」と判定し、3×3では A × A⁻¹ の対角成分による検算まで表示します。

使い方(3ステップ)

1

サイズを選ぶ

「2×2行列」「3×3行列」のタブから選びます。2×2では第3列・第3行の入力欄が自動で隠れます。

2

成分を入力する

左上から順に成分を入力します。例題ボタンを使えば、この記事の数値をすぐ試せます。

3

det・逆行列・検算を読む

「行列式(det)」欄に代入過程、「逆行列」欄に結果の表、3×3では対角成分の検算が表示されます。逆行列が存在しない場合はその旨が明示されます。

この記事で紹介したツール

行列の行列式・逆行列ツール

余因子展開の代入過程つきで行列式と逆行列を計算。det = 0 の判定と検算つきの、ブラウザで完結する無料ツールです。

使ってみる

記事の例を確かめるには、ツールの2×2タブで「例題([2,1;1,1])」を押します。det = 1 と逆行列 [1, −1; −1, 2] が表示されます。3×3タブの例題では det = −1 と整数成分の逆行列、対角成分 1, 1, 1 の検算まで確認できます。計算で出た分数の整理は「分数計算のやり方」、ベクトルとの関係は「ベクトルの内積の求め方」が参考になります。

まとめ

  • 2×2の行列式は a·d − b·c。逆行列は (1/det) × [d, −b; −c, a] で、det ≠ 0 が存在条件
  • 3×3の行列式は1行目での余因子展開。符号の市松模様(+, −, +)を守る
  • det = 0 は「元に戻せない変形」の印。対応する連立方程式も一意に解けない
  • 逆行列の検算は A × A⁻¹ = E。0が多い行・列で展開すると手計算が楽になる

よくある質問

逆行列は何のために使いますか?

連立一次方程式を A·x = b の形で書いたとき、解が x = A⁻¹·b と表せるためです。変換行列を元に戻す操作(座標系の復元、アニメーションの逆再生)など、コンピュータグラフィックスでも日常的に使われます。

3×3の逆行列は、ツールと教科書で求め方が違うのですが?

同じ結果に至る別手順です。教科書(OpenStax)では元の行列に単位行列を並べて行基本変形する方法を紹介し、本ツールは「余因子 ÷ 行列式」で各成分を直接計算しています。どちらでも同じ逆行列が得られます。

行列式が 0 かどうかは、計算前に分かりますか?

厳密には計算が必要ですが、1行(列)が別の行(列)の定数倍なら det = 0 と即座に分かります(例: [1, 2; 2, 4] の第2行は第1行の2倍)。成分に0が多い行列も展開が楽なので、まず形を見る癖をつけると効率的です。

4×4以上の行列も計算できますか?

本ツールは2×2と3×3専用です。それ以上のサイズはガウスの消去法(行基本変形)で処理するのが一般的で、手順が異なるため対象外としています。

参考資料

  • OpenStax, College Algebra 2e, Section 7.7 “Solving Systems with Inverses”(単位行列、2×2の逆行列の公式、逆行列の検算): openstax.org
  • OpenStax, College Algebra 2e, Section 7.8 “Solving Systems with Cramer’s Rule”(2×2・3×3の行列式の求め方): openstax.org