「内積の公式が2つあって、どちらを使えばいいのか分からない」「内積を求めたあとの、なす角の出し方があいまい」——数学Bのベクトルでは、この2点が代表的なつまずきどころです。
まず結論から: 内積は「成分の式」と「大きさとなす角を使う定義式」の2つの式で計算でき、どちらも同じ値になります。成分が分かっていれば前者、大きさと角度が分かっていれば後者を使う——この使い分けさえ押さえれば、内積の問題はほぼ解けます。この記事では、その2つの式を例題で往復しながら、なす角の求め方、内積の符号の意味、物理の「仕事」とのつながりまで解説します。
内積の2つの式
内積 a·b は、2つのベクトルから1つの数値を作る演算です。結果が数値(スカラー)であってベクトルではないことが重要な特徴です。
| 式 | 形 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 成分の式 | a·b = a₁b₁ + a₂b₂ (+ a₃b₃) | 成分が分かっているとき。計算は掛けて足すだけ |
| 定義式 | a·b = |a| |b| cosθ | 大きさと角度が分かっているとき。幾何学的な問題向け |
2つの式は常に同じ値を返します。この対応から、なす角を求める式 cosθ = (a·b) ÷ (|a| |b|) が導かれます。成分から内積を計算し、大きさと組み合わせれば角度まで出せる、という流れです。
内積には、普通の数と似た計算の性質もあります。交換法則 a·b = b·a(掛ける順序を入れ替えても同じ)や分配法則 a·(b + c) = a·b + a·c が成り立つため、複雑な式も数式と同じ要領で整理できます。一方で「内積の結果は数値」であることから、(a·b)·c のような3つのベクトルの連続計算は定義できない点には注意が必要です。
実践:成分から内積となす角を求める
例題1: 2次元 — a = (3, 4)、b = (4, 3)
内積は成分の式に代入するだけです。
a·b = 3 × 4 + 4 × 3 = 12 + 12 = 24
大きさは三平方の定理(ピタゴラスの定理)で求めます。
|a| = √(3² + 4²) = √25 = 5、 |b| = √(4² + 3²) = √25 = 5
なす角は、cosθ = 24 ÷ (5 × 5) = 0.96 から、逆余弦(cos⁻¹)で戻して θ ≈ 16.26°。手元の電卓やツールで cos⁻¹(0.96) を計算すれば同じ値が出ます。
例題2: 3次元 — a = (1, 2, 2)、b = (2, 3, 6)
3次元でも手順は同じです。内積は a·b = 1 × 2 + 2 × 3 + 2 × 6 = 2 + 6 + 12 = 20。大きさは |a| = √(1 + 4 + 4) = √9 = 3、|b| = √(4 + 9 + 36) = √49 = 7。
cosθ = 20 ÷ (3 × 7) = 20/21 ≈ 0.9524 より、θ ≈ 17.75° です。足し算する項が1つ増えるだけで、考え方は2次元と同一です。
例題3: 垂直の判定
a = (1, 0)、b = (0, 1) の内積は 1 × 0 + 0 × 1 = 0。内積が0のとき、cosθ = 0 なので θ = 90°、つまり2つのベクトルは垂直です。「a·b = 0 ⇔ 垂直」は計算問題でも物理でも使える最重要の判定です。
内積の符号が教えてくれること
内積の値そのものよりも、その符号が向きの関係を素早く教えてくれます。
| 内積の値 | なす角 | 関係 |
|---|---|---|
| a·b > 0 | 0° 〜 90°(鋭角) | 同じような向き |
| a·b = 0 | 90° | 垂直 |
| a·b < 0 | 90° 〜 180°(鈍角) | 逆向きに近い |
たとえば a = (−1, 2)、b = (3, 1) なら a·b = −3 + 2 = −1 < 0 で、なす角は鈍角(約98.1°)だと計算前に分かります。
成分が分からず、大きさと角度だけが分かっている場面では、定義式のほうが直接使えます。|a| = 4、|b| = 2、なす角 60° なら a·b = 4 × 2 × cos60° = 8 × 1/2 = 4 です。与えられた情報が「成分」か「大きさと角度」かを見て、使う式を選びます。
よくある3つの間違い: ① 内積の答えをベクトルだと思って矢印を付ける(内積は数値です。ベクトルを返す演算はスカラー倍やベクトル和)。② 成分同士の掛け合わせの順序をずらす(a₁×b₂ など、対応する成分同士を掛ける)。③ 0ベクトルとのなす角を求めようとする(大きさが0のベクトルは向きが定まらないため、角度は定義されません)。
物理とのつながり: 仕事の計算
内積が最も活躍するのが物理の「仕事」です。力 F を受けて位移 s だけ動いたときの仕事は W = |F| |s| cosθ で、これは内積そのものです。
たとえば大きさ20 Nの力が、位移5 mに対して60°の方向から掛かるとき、W = 20 × 5 × cos60° = 100 × 0.5 = 50 J です。力が位移と垂直(θ = 90°)なら cos90° = 0 で仕事は0——「吊り上げた荷物を水平に運んでも重力は仕事をしない」のがこの性質の帰結です。ゲームやCGでも、面の向きと光の方向の内積を取って明るさを決めるライティング処理など、同じ計算が現役で使われています。
ツールで内積となす角を確かめる
手計算の答え合わせにはTools Hubのベクトル計算ツールが使えます。2次元・3次元の成分を入力すると、内積・大きさ・なす角が成分式とcosθへの代入過程つきで表示されます。処理はブラウザ内で完結し、入力は送信されません。
使い方(3ステップ)
次元を選ぶ
「2次元(成分2つ)」「3次元(成分3つ)」のタブから選びます。2次元では第3成分の入力欄が自動で消えます。
a・bの成分を入力する
各成分を入力します。「垂直(90°)」「平行(0°)」の例題ボタンで、内積が0や符号で分かる仕組みも試せます。
内積・大きさ・なす角を読む
結果カードに内積と\|a\|・\|b\|、「内積(成分の式)」に代入過程、「なす角」に cosθ から角度(度・ラジアン)までの計算が表示されます。
この記事で紹介したツール
ベクトル計算ツール
内積・大きさ・なす角を代入過程つきで計算。2次元・3次元に対応し、垂直・平行の判定もできる無料ツールです。
記事の例題を確かめるには、ツールで2次元タブを選び a = (3, 4)、b = (4, 3) と入力します。a·b = 24、|a| = |b| = 5、θ ≈ 16.26° が表示され、「内積(成分の式)」の欄に 3 × 4 + 4 × 3 の代入過程が出ます。3次元タブに切り替えれば (1, 2, 2) と (2, 3, 6) の例も同じ手順で確認できます。
内積で出た角度の元になる三角関数の値の整理は「三角比の覚え方」、分数や√の処理は「分数計算のやり方」が参考になります。
まとめ
- 内積は成分の式 a·b = a₁b₁ + a₂b₂ と定義式 a·b = |a| |b| cosθ の2つで計算でき、どちらも同じ値
- 大きさは |a| = √(a₁² + a₂²) で求め、cosθ = (a·b) ÷ (|a| |b|) から逆余弦でなす角に戻す
- 符号の意味: 正なら鋭角、0なら垂直、負なら鈍角。a·b = 0 は垂直判定の決定打
- 物理の仕事 W = |F| |s| cosθ は内積そのもの。垂直なら仕事は0
- 0ベクトルとのなす角は定義されない。答え合わせは代入過程が見えるツールで
- 内積は交換法則・分配法則を満たすが、結果は数値なのでベクトルとしては扱えない点に注意
よくある質問
内積と、ベクトルの掛け算(スカラー倍)の違いは何ですか?
スカラー倍 c·a はベクトルの大きさをc倍にしたベクトルを返しますが、内積 a·b は数値を返します。返ってくるものが違うため、内積の答えに矢印を付けるのは誤りです。
なぜ a·b = 0 だと垂直だと分かるのですか?
定義式 a·b = |a| |b| cosθ で、|a| と |b| が正のとき a·b = 0 なら cosθ = 0。cosが0になる角度は90°なので、2つのベクトルが垂直だと分かります。
なす角の範囲は0°から180°ですか?
はい。2つのベクトルのなす角は、向きの開きを0°〜180°で表します。マイナスの角度は出てきません。cos⁻¹で戻した値がそのまま0°〜180°に収まるのもこのためです。
3次元の内積は2次元と何が違いますか?
成分が1つ増えて a·b = a₁b₁ + a₂b₂ + a₃b₃ になるだけで、大きさ・なす角の考え方はすべて同じです。ツールの次元タブを切り替えれば同じ手順で計算できます。
参考資料
- OpenStax, Algebra and Trigonometry 2e, Section 10.8 “Vectors”(成分表示・大きさ・内積の2つの式となす角): openstax.org