この記事は、高校数学Iの「データの分析」や情報Iで回帰直線を学んでいる人、レポートで検量線や傾向線を求める大学生、Excelやツールの結果を手計算で確かめたい人向けです。

「公式の a と b がどっちか分からなくなる」「相関係数 r と決定係数 R² の違いが説明できない」「Excelの傾きと切片が合っているか確かめたい」。この記事では、最小二乗法で回帰直線を求める手順を、合計表と途中式つきで整理します。例題は学習用に用意したデータで、実際の測定結果ではありません。

結論:回帰直線はこの3つの式で求まる

データ (x₁, y₁), …, (xₙ, yₙ) に対する回帰直線を y = ax + b(a: 傾き、b: 切片)とすると、次の順で計算します。x̄、ȳ はそれぞれ x、y の平均です。

求めるもの 式 意味
傾き a a = Sxy / Sxx x が1増えるときの y の増加量の目安
切片 b b = ȳ − a·x̄ 回帰直線が y 軸と交わる値
相関係数 r r = Sxy / √(Sxx·Syy) 直線関係の強さと向き(−1〜1)
決定係数 R² R² = r² 回帰直線が説明できる y の変動の割合の目安(0〜1)

ここで Sxx、Sxy、Syy は「偏差平方和・偏差積和」とよばれ、各点の偏差を1つずつ引かなくても合計から計算できます。

  • Sxx = Σx² − (Σx)² / n
  • Sxy = Σxy − (Σx·Σy) / n
  • Syy = Σy² − (Σy)² / n

計算の流れは、① x² と xy の列を表に追加する → ② 合計を出す → ③ 平均 → ④ Sxx・Sxy → ⑤ a・b → ⑥ r・R² です。次の例題で実際に追います。平均や標準偏差そのものの計算は平均値・中央値・標準偏差の求め方、測定値の桁数の扱いは有効数字の数え方と計算ルールで確認できます。

例題1:5組のデータで回帰直線を求める

(x, y) = (1, 2), (2, 4), (3, 5), (4, 4), (5, 5) を使います。

番号 x y x² xy
1 1 2 1 2
2 2 4 4 8
3 3 5 9 15
4 4 4 16 16
5 5 5 25 25
合計 15 20 55 66
  1. 平均:x̄ = 15 ÷ 5 = 3、ȳ = 20 ÷ 5 = 4
  2. Sxx = 55 − 15² ÷ 5 = 55 − 45 = 10
  3. Sxy = 66 − 15×20 ÷ 5 = 66 − 60 = 6
  4. 傾き:a = 6 ÷ 10 = 0.6
  5. 切片:b = 4 − 0.6×3 = 2.2
  6. 回帰直線:y = 0.6x + 2.2

ここで Syy = Σy² − (Σy)²/n を計算すると、Σy² = 4+16+25+16+25 = 86 なので Syy = 86 − 80 = 6。よって

  • r = 6 ÷ √(10×6) = 6 ÷ √60 ≈ 0.7746
  • R² = 0.7746² ≈ 0.6

R² = 0.6 は「y の変動のおよそ60%をこの直線で説明できる」という目安です。残差の合計が0になることも確認しておきましょう(後述)。

例題2:検量線として使う場合

測定値 (0, 0.1), (1, 1.1), (2, 1.9), (3, 3.2), (4, 4.0) では、Σx = 10、Σy = 10.3、Σx² = 30、Σxy = 30.5、n = 5 です。

  1. x̄ = 2、ȳ = 2.06
  2. Sxx = 30 − 10² ÷ 5 = 10
  3. Sxy = 30.5 − 10×10.3 ÷ 5 = 30.5 − 20.6 = 9.9
  4. a = 9.9 ÷ 10 = 0.99
  5. b = 2.06 − 0.99×2 = 0.08
  6. 回帰直線:y = 0.99x + 0.08

Syy = Σy² − (Σy)²/n = 31.07 − 21.218 = 9.852 なので、r = 9.9 ÷ √(10×9.852) ≈ 0.9974、R² ≈ 0.9948。x = 5 のときの予測値は 0.99×5 + 0.08 = 5.03 です。ただし x = 5 はデータの範囲(0〜4)の外なので、この予測は外挿になります。

残差を確かめる

残差は「実測値 y − 予測値 ŷ」です。例題1の回帰直線 y = 0.6x + 2.2 で計算すると次のようになります。

x y 予測値 ŷ 残差 y − ŷ
1 2 2.8 −0.8
2 4 3.4 0.6
3 5 4.0 1.0
4 4 4.6 −0.6
5 5 5.2 −0.2
合計 0

切片を含む最小二乗回帰では、残差の合計は0になります。合計が0にならない場合は、計算ミスか、切片なしの回帰を計算している可能性があります。残差の表を見ると、どの点が直線から大きく離れているか(外れ値の候補)も分かります。

記号の注意:教科書では a と b が逆のことがある

この記事とTools Hubのツールは y = ax + b(a: 傾き、b: 切片) で表示します。一方、統計の教科書や電卓、OpenStaxの説明では ŷ = a + bx(a: 切片、b: 傾き) と書くことがあります。文字の割り当てが逆なので、答案やレポートでは「aは傾き」「bは切片」のように意味を添えて書くと安全です。値そのものは同じでも、記号の説明がないと採点者や読み手が逆に解釈します。

よくある間違い

  • xとyを取り違える:xからyを予測するのか、yからxを予測するのかで回帰直線は変わります。r = ±1 でない限り、2本の回帰直線は一致しません。説明変数(x)と目的変数(y)を先に決めます
  • 相関係数を2乗し忘れる:「説明できる割合」を語るときに使うのは R² = r² です。r = 0.7 なら R² = 0.49 で、約49%です
  • 外れ値を理由なく除く:最小二乗法は外れ値の影響を強く受けます。除く場合は測定ミスなどの根拠を記録します
  • 曲線関係に直線を当てはめる:散布図が曲線的なのに直線を引くと、r や R² が低くなり、予測も外れます
  • 範囲外を平気で予測する:データの x 範囲外(外挿)は、直線関係が続く保証がなく信頼性が下がります
  • 相関を因果と読み替える:相関が強くても因果関係があるとは言えません。偶然の「見せかけの相関」もあります

ツールで検算する

手計算の答え合わせには、Tools Hubの最小二乗法・回帰直線ツールが使えます。データを貼り付けると、合計・Sxx・Sxy・a・b・r・R²を途中式つきで表示し、散布図と残差の表も確認できます。

1

例題2を確かめる

「例題で試す」の「検量線の例(5点)」を押すと、y = 0.99x + 0.08、傾き0.99、切片0.08、r = 0.9974、R² = 0.9948が表示されます。計算の過程には Sxx = 10、Sxy = 9.9、a = 9.9 ÷ 10 = 0.99 と、この記事と同じ式変形が並びます。

2

予測と外挿の警告を確認する

「x から y を予測」に5を入れると ŷ = 5.03 と表示され、データの範囲外なので外挿の注意書きが出ます。x = 2 なら ŷ = 2.06 で、範囲内なので警告は出ません。

3

残差を確認する

「データと残差」を開くと、各点の予測値 ŷ と残差 y − ŷ が表で確認できます。手計算した残差と照合し、大きく外れた点がないかを見ます。データは自分で「x, y」の形式で貼り付けることもできます(例: 1, 3)。

この記事で紹介したツール

最小二乗法・回帰直線

データを貼り付けるだけで、回帰直線・r・R²・散布図・残差を途中式つきで計算。ブラウザで完結・無料・登録不要です。

使ってみる

適用条件と限界

  • 最小二乗法は x と y の直線関係 を仮定します。まず散布図を描き、直線で近似してよさそうかを確認します(OpenStax 12.2)
  • 通常の最小二乗回帰は 縦方向(y方向)の残差の2乗和 を最小にします。x にも無視できない測定誤差がある場合、この方法は適切でないことがあります(NISTの解説)
  • 外れ値の影響を強く受けます。外れ値の有無は残差表や散布図で確認します
  • データの範囲外への予測(外挿)は、直線関係がそのまま続く保証がなく信頼性が下がります
  • 相関は因果関係を意味しません。相関係数の値だけで関係の有無を断定せず、散布図と背景を確認します(総務省統計局)
  • 決定係数 R² = r² が成り立つのは、切片を含む最小二乗の単回帰(直線)の場合です。曲線回帰や原点を通す回帰では一致しないことがあります

よくある質問

最小二乗法とは何ですか?

データ点と直線の縦方向の差(残差)を2乗して合計し、その合計が最も小さくなる直線を選ぶ方法です。2乗するのは、正と負の差が打ち消し合わないようにするためです。結果として得られる直線が回帰直線です。

傾きと切片の記号が教科書と逆なのはなぜですか?

この記事とツールは y = ax + b(a: 傾き、b: 切片)で表示しているためです。教科書や電卓では ŷ = a + bx(a: 切片、b: 傾き)と書くことがあり、同じ文字でも意味が逆になります。どちらの記号を使う場合も、何が傾きで何が切片かを明記してください。

相関係数 r と決定係数 R² の違いは?

r は2変数の直線関係の強さと向きを −1〜1 で表します。R² = r² は回帰直線が y の変動をどれだけ説明できるかを 0〜1 で表す目安です。たとえば r = 0.7 なら R² = 0.49 で、説明できるのは約49%です。

データが2組だけでも回帰直線は求まりますか?

2点を通る直線は1本に決まるので計算自体はできます。ただし2点だけでは外れ値や測定誤差の影響を判断できず、r も ±1 になります。散布図と十分なデータ数で傾向を確認することが大切です。

外れ値があるときはどうすればよいですか?

残差表で大きく外れた点を確認し、測定ミスなど除外の根拠がある場合を除いて、そのまま計算します。理由なく都合の悪い点を除くと、結果を都合よく見せてしまうことになります。

曲線の関係にも最小二乗法は使えますか?

考え方(残差の2乗和を最小にする)は曲線にも拡張できますが、この記事とツールは直線(1次式)専用です。曲線的なデータに直線を当てはめると r や R² が低くなり、予測も外れやすくなります。

この記事の確認範囲

2026年10月5日に、定義・式を参考資料と照合し、例題1・例題2の合計・Sxx・Sxy・傾き・切片・r・R²・残差を手計算で再確認しました。例題のデータは学習用に用意したもので、実際の測定結果ではありません。ツールの入力項目と表示(例題プリセット、予測、残差表)も確認対象としています。