「中和滴定と同じように計算したら、答えが合わない」——酸化還元滴定でつり合うのは、H⁺とOH⁻ではなく電子(e⁻)の物質量です。解き方は次の3手順に整理できます。
- 半反応式から電子数(e⁻の係数)を確認する
- 電子数 × 物質量の等式を立てる
- 濃度または体積を求める
この記事では、電子数の一覧、標定・定量・間接ヨウ素滴定の例題、中和滴定との違い、よくある間違い、無料ツールでの検算までをまとめます。
中和滴定との違い
中和滴定と酸化還元滴定は、操作はよく似ていますが「何がつり合うか」が違います。
- 中和滴定:酸が出すH⁺の物質量 = 塩基が出すOH⁻の物質量(価数 × 濃度 × 体積)
- 酸化還元滴定:酸化剤が受け取るe⁻の物質量 = 還元剤が放出するe⁻の物質量(電子数 × 物質量)
酸化剤・還元剤・標準溶液・終点といった用語は共通です。中和滴定の計算は中和滴定の計算ツールとモル濃度の求め方で確認できます。
電子数は半反応式のe⁻の係数
電子数は暗記ではなく、半反応式から読み取ります。代表的な物質では次のとおりです。
| 物質 | 役割 | 半反応式 | 電子数 |
|---|---|---|---|
| 過マンガン酸カリウム(酸性) | 酸化剤 | MnO₄⁻ + 8H⁺ + 5e⁻ → Mn²⁺ + 4H₂O | 5 |
| 二クロム酸カリウム | 酸化剤 | Cr₂O₇²⁻ + 14H⁺ + 6e⁻ → 2Cr³⁺ + 7H₂O | 6 |
| 過酸化水素(酸化剤として) | 酸化剤 | H₂O₂ + 2H⁺ + 2e⁻ → 2H₂O | 2 |
| シュウ酸 | 還元剤 | H₂C₂O₄ → 2CO₂ + 2H⁺ + 2e⁻ | 2 |
| 過酸化水素(還元剤として) | 還元剤 | H₂O₂ → O₂ + 2H⁺ + 2e⁻ | 2 |
| 鉄(II)イオン | 還元剤 | Fe²⁺ → Fe³⁺ + e⁻ | 1 |
| チオ硫酸ナトリウム | 還元剤 | 2S₂O₃²⁻ → S₄O₆²⁻ + 2e⁻ | 1(S₂O₃²⁻ 1個あたり) |
同じ物質でも、酸化剤として働くか還元剤として働くかで半反応式が変わります。チオ硫酸は2個で電子2個を渡すため、1個あたりの電子数は1です。半反応式のつくり方と酸化数の考え方はOpenStaxの該当節で確認できます。
計算の手順
- 濃度がわかっている側の物質量を求める:物質量(mol)= 濃度(mol/L)× 体積(L)
- 電子の物質量を求める:電子数 × 物質量
- 等式から求めたい側の物質量を求める
- 濃度または体積に直す
体積はmLで与えられることが多いので、Lに直してから物質量を計算します。等式では両辺の体積の単位が同じならmLのまま比を使うこともできます。
例題1:過マンガン酸カリウム水溶液の標定
0.0500 mol/Lのシュウ酸水溶液20.0 mLを硫酸酸性で温め、濃度不明の過マンガン酸カリウム水溶液で滴定したところ、16.0 mLで終点に達しました。KMnO₄の濃度を求めます。
- シュウ酸の物質量:0.0500 × 20.0/1000 = 1.00 × 10⁻³ mol
- シュウ酸が渡す電子:1.00 × 10⁻³ × 2 = 2.00 × 10⁻³ mol
- 受け取る側は同じ電子量なので、KMnO₄の物質量をxとすると 5x = 2.00 × 10⁻³ より x = 4.00 × 10⁻⁴ mol
- 濃度:4.00 × 10⁻⁴ ÷ (16.0/1000) = 0.0250 mol/L
検算として、電子数が5と2なので、酸化剤の物質量(4.00 × 10⁻⁴ mol)は還元剤(1.00 × 10⁻³ mol)より少なくなります。係数比を逆にした2.50 × 10⁻³ molは、この大小関係と合いません。
例題2:必要な体積を求める
0.10 mol/Lの過酸化水素水10.0 mLを硫酸酸性にし、0.020 mol/LのKMnO₄水溶液で滴定します。必要な体積を求めます。
- H₂O₂の物質量:0.10 × 10.0/1000 = 1.0 × 10⁻³ mol
- H₂O₂が渡す電子:1.0 × 10⁻³ × 2 = 2.0 × 10⁻³ mol
- KMnO₄の物質量:2.0 × 10⁻³ ÷ 5 = 4.0 × 10⁻⁴ mol
- 体積:4.0 × 10⁻⁴ ÷ 0.020 × 1000 = 20.0 mL
例題3:間接ヨウ素滴定
色が濃い、反応が遅いなどで直接滴定しにくい酸化剤は、過剰のヨウ化カリウムを加えてヨウ素I₂を遊離させ、チオ硫酸ナトリウムで滴定します(間接ヨウ素滴定)。電子は「酸化剤 → I₂ → チオ硫酸」と受け渡されるだけなので、酸化剤が受け取った電子の物質量 = 使ったチオ硫酸ナトリウムの物質量(S₂O₃²⁻ 1個あたり1e⁻)が成り立ちます。
0.010 mol/Lの二クロム酸カリウム水溶液20.0 mLにヨウ化カリウムと希硫酸を加え、0.100 mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定する場合:
- 酸化剤の電子:6 × 0.010 × 20.0/1000 = 1.20 × 10⁻³ mol
- チオ硫酸の物質量も1.20 × 10⁻³ mol
- 体積:1.20 × 10⁻³ ÷ 0.100 × 1000 = 12.0 mL
逆に、チオ硫酸24.0 mLを使ったなら、二クロム酸カリウムの濃度は 1.20 × 10⁻³ × (24.0/12.0) ÷ (6 × 20.0/1000) = 0.0200 mol/L と求められます。
よくある間違い
- 中和滴定の「価数」と混同する:価数はH⁺の数、酸化還元ではe⁻の数です。同じ「2」でも意味が違います
- 係数比を逆にする:電子数が大きい酸化剤ほど、必要な物質量は少なくなります
- チオ硫酸を2価と数える:半反応式は2S₂O₃²⁻で2e⁻なので、1個あたりは1です
- 中性・塩基性でも5を使う:酸性ではMn²⁺まで還元されて5e⁻、中性・塩基性ではMnO₂止まりで3e⁻です
- mLをLに直し忘れる:物質量を求めるときは体積をLにします
- 途中で丸める:丸めは最後に1回だけ行います(有効数字の計算ルール)
適用条件と限界
- 反応が過不足なく完全に進む条件(硫酸酸性・加熱・終点の判定)を前提とします。KMnO₄は色の変化が終点を教える自己指示薬として働きます
- 酸性にするのに硫酸を使うのは、塩酸は還元剤、硝酸は酸化剤として働き、量的関係が崩れるためです
- 逆滴定やCOD(化学的酸素要求量)のように、残った酸化剤をさらに滴定する多段の計算は、この記事の基本3パターンには含まれません
- 有効数字は、与えられた数値の桁数(多くは3桁)に最後に合わせます
ツールで検算する
手計算の答え合わせには、Tools Hubの酸化還元滴定の計算ツールが使えます。物質を選ぶと半反応式と電子数が自動で入るので、電子数の確認と計算を同時に行えます。
物質を選ぶ
「物質(電子数の目安)」の一覧から還元剤のシュウ酸を選ぶと、半反応式H₂C₂O₄ → 2CO₂ + 2H⁺ + 2e⁻と電子数2が入ります。酸化剤の過マンガン酸カリウム(酸性)を選ぶと、電子数5が入ります。
例題1の値を入力する
既知側(還元剤)の濃度に0.0500、体積に20.0を入れ、求めたい側(酸化剤)の体積に16.0を入れます。「計算する」を押すと、濃度 = 0.0250 mol/Lと、電子の物質量の途中式が表示されます。
パターンを切り替える
「反応に必要な体積を求める」では例題2を、「間接ヨウ素滴定(チオ硫酸で測る)」では例題3を検算できます。間接ヨウ素滴定は、チオ硫酸の体積と酸化剤の濃度のどちらを求めるかも選べます。
この記事で紹介したツール
酸化還元滴定の計算
電子数の一覧つきで、濃度・体積・間接ヨウ素滴定を途中式つきで計算。ブラウザで完結・無料・登録不要です。
よくある質問
中和滴定と何が違いますか?
つり合う量が違います。中和滴定はH⁺とOH⁻の物質量(価数 × 濃度 × 体積)、酸化還元滴定は電子の物質量(電子数 × 物質量)が等しくなります。操作(ビュレット・終点の判定)は似ていますが、式に入れる「価数」の意味が変わります。
電子数はどこを見ればよいですか?
半反応式のe⁻の係数です。たとえばMnO₄⁻ + 8H⁺ + 5e⁻ → Mn²⁺ + 4H₂Oなら5、Cr₂O₇²⁻ + 14H⁺ + 6e⁻ → 2Cr³⁺ + 7H₂Oなら6です。物質名で暗記するより、その場で半反応式を書いて係数を読むほうが安全です。
チオ硫酸ナトリウムの電子数が1なのはなぜですか?
半反応式が2S₂O₃²⁻ → S₄O₆²⁻ + 2e⁻で、チオ硫酸イオン2個から電子2個が出るため、1個あたりは1e⁻です。2個分の式を1個分に読み替える点が、他の物質と混同しやすいところです。
硫酸を使うのはなぜですか?
硫酸は酸化剤にも還元剤にもならず、酸性にするためだけに働くからです。塩酸は塩化物イオンが還元剤として働き、硝酸は酸化剤として働くため、滴定の量的関係が崩れます。
この記事の確認範囲
2026年10月3日に、半反応式の電子数、例題の物質量・電子の物質量・濃度・体積を手計算で再確認し、参考資料と照合しました。例題は検証済みの値を用いた学習用の計算例で、実際の実験結果ではありません。試薬を扱う具体的な操作は、所属先の実験手順書や担当者の指示に従ってください。